このことについて、情報整理の意味で、いくらか書いておきます。
トキは、日本の希少種保護に関する象徴的なケースとみていいかと思います。一つの種を守るための施策・行為としてはいささか極端な形かもしれませんが、よくも悪くも貴重な前例となることは間違いないでしょう。市民の関心や産業への影響という面での展開も注目に値するものだと思います。
放鳥までの軌跡は、NBonlineの記事が周辺諸事情もふくめてわかりやすいので、下の方にリンクをはっておきました。
この記事によると、野生復帰ステーションで飼われている29羽のトキが1日41キロの餌を平らげるそうですので、一日一羽あたり約1.5kgの餌が必要ということになります。その内容は、大分県産のドジョウ(3000円/kg)、四万十川のサワガニ(100円/匹)、カワエビ(40円/尾)。もちろんこれプラス送料となりますので恐ろしい程の費用がかかっていることになりますね。野生に放たれたトキは、自力でこれに代わる餌を探すことになるわけです。
環境省は、2025年までに60羽の朱鷺を野生に定着させる計画に伴って、人工のエサ場の造成を進めているそうですが、60羽が毎日1.5キロを食べるとすると、必要な餌は年間30トン以上。島外から餌生物を持ち込むことによる遺伝子のかく乱の問題は、もはや今さらといいますか、トキという存在を前にしては言うだけ無駄な話になってしまっているのかもしれませんが、餌の出自がどこであれ、最終的には野生化したトキをまかなうに十分な量の餌生物が、トキの暮らすその土地で増殖し続ける状態にならないことにはなんともなりません。
休耕田や借り上げ圃場を使ったビオトープがトキの餌のために用意されるようですが、面積規模からいっても一番のキーを握るには水田でしょう。けれども、トキの餌が増殖できるような水田と、今普通に稲作の行われる水田は別物であるという問題があります。トキの餌場と稲作を両立させるには、農法や水田管理の手法から変えなければいけなくなるわけです。
記事では、「トキが住める環境の米」というブランド価値が佐渡の農家の行く末をも決定づけるとしてその取り組みも紹介していますが、トキの存在はすでにトキだけの問題ではなくなってしまっています。
別エントリで、トキ放鳥後の関連記事を整理しておきます。
トキの試験放鳥について2(試験放鳥関連記事まとめ)
トキの試験放鳥について3(試験放鳥周辺記事まとめ)
他、このブログのトキ関連エントリのリンク一覧は末尾に。
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NBonlineの記事
宮嶋康彦氏のコラム:地方再生物語より
■朱鷺(トキ)と共生する里山作りが離島を救う
莫大なコストを費やし回復させた自然環境が佐渡島を活性化
2008年9月24日 水曜日 宮嶋 康彦
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080922/171300/?P=1
・かつて農家に「害鳥」といわれた朱鷺
・田を荒らされたらノと不安を口にしながらも飛ぶことを祈る
・自然にこそビジネスモデルがある
・失われた自然の回復にはいくら掛かったのか
・エサのドジョウは人間が食べるのと同じ"高級品"
・高いエサ代を掛けてまでなぜ朱鷺を保護するのか?
■農業に望外の付加価値をもたらした朱鷺
自然との共生という「ブランド」が島を潤す
2008年9月25日 木曜日 宮嶋 康彦
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080924/171503/?P=1
・朱鷺なしでは沈む佐渡島
・まだ朱鷺の放鳥は早い、飼育羽数はたった122羽
・だいじょうぶ、私は朱鷺を信じています
■"絶滅"した種はいかに再生されたのか
朱鷺の人工飼育に挑んだ近辻宏帰さんの36年
2008年9月26日 金曜日 宮嶋 康彦
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080925/171631/?P=1
・上空を旋回し自らの棲家を探して飛び立った
・学校帰りに小鳥屋に寄るのが楽しみだった
・"絶滅"の日は朱鷺をねぎらう気持ちしかなかった
・中国の朱鷺の遺伝子は日本の朱鷺と同じ
・会見で釈明するのがものすごく辛かった
・ぼくは50億円も使ったのか
トキ関連エントリ
トキの試験放鳥について1
トキの試験放鳥について2(放鳥関連記事まとめ)
トキの試験放鳥について3(放鳥周辺記事まとめ)
(2008年12月中旬まで)
トキの試験放鳥について4(関係者たちの見解・コメント)
トキの試験放鳥について5(他の生物関連)
トキの試験放鳥について6(調査関連、周辺事情)
トキの試験放鳥について7(その他)
(2009年4月上旬まで)
タグ:鳥類