すっかり更新をサボってしまいました。
なので、というわけでもありませんが、このところ感じている仕事としての環境調査・生物調査の印象をざっくりとわかりやすい例え話の形でまとめてみます。
ほんとに例えばの話ですが、印象としてこんな感じ。
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公園設計の専門家と、植物や土壌の研究者と、農業の達人と、カリスマガーデニングママさんと、盆栽名人と、造園職人と、力持ちのお兄さんと、有能で実直な会計士と、博学で知られる各種資格取得マニアさんと、とにかくやたらいい人が、長年培ってきたありったけの能力を持ち寄って、小学校の校庭の隅っこに小さな花壇を作ることになったとします。
花壇作成チームは、入念な下準備により、アレロパシーや連作障害、土壌の質や水の通過経路、植える植物の色合いや配置、流行、害虫対策、維持管理コストなど、様々な問題に配慮した花壇を作り始めます。が、
「オシロイバナとコスモスって、どっちが赤いんでしたっけ?」
なんていいながら写真を撮りまくる若い男性教諭から、規制がどうの、前例がどうの、安全面でどうの、僕は素人で分からないのだけどどうのこうの、やっぱりこれはなんとなくどうのこうの、実家の隣の家の庭ならばこうだからどうのこうの、などとあれこれ指図を受けて作業するうちに、いまひとつ不本意な仕上がりになってしまいました。とはいえ、もともとの基本設計がしっかり練られているので、植えた植物が順調に育てば、しゃがんだ小学生の視線からみて、ちょっとしたミニチュア版植物の楽園が出現したように映るはずでした。
また、副産物的ながら、このメンバーで作業したからこその花壇に対する新しい気づきもたくさんあり、それは貴重な成果として広く公表すべきことでした。
とりあえず求められた仕事を全て終え、チームのみんなは、まずまずの仕事ができた満足感の中で、各自水筒に用意したお茶を飲みながら話しました。
「水のまき方や肥料のやり方など、手入れ方法をきちんと説明しておかないといけないねえ」
「季節季節でどう手をかけてやるのがいいかなんて、あいつらきっと知らんだろ」
「種ごとの特性や相互作用なんかもわかっておいてもらった方がいいですね」
「そうだねえ、普段なかなか見られない珍しい花をいくつも選んであることだし」
「ならいっそ、開花時期に花の形や色の話を昆虫との共進化にからめて子供たちに話してやったらどうだろう。きっと目を輝かして喜ぶと思うよ」
するとそこに、虫の群れのようにひしめきあう児童たちを従えた校長先生が、汗をふきふきやってきました。そして、
「今日は暑い中ご苦労さん。立派な花壇ができましたねえ」
と若い男性教諭に向かっていい、チームの面々は、有り難がったらかえって失礼なんじゃないかと思うような額の謝礼と「やる気・本気・元気」とかかれた校章入り鉛筆を配られ、早々に帰されてしまいました。
彼らの背後からは、
「植物たちに毎朝『おはよう』って話しかけると、綺麗な花を咲かせるんですよ。楽しみですねえ」
と、得意そうな口調で児童たちに話してきかせる校長先生の声が聞こえてきました。
それからしばらくして、カリスマガーデニングママさんは、総合学習のプランター代の寄付金額がどうのこうのというPTAの集まりで学校に呼ばれました。
ホームセンターのガーデニングコーナーの仕事が長引いてしまったため、かなりの遅刻で慌てて駆け込んだのですが、資料の読み上げとしゃんしゃんだけのなんてことのない会議でした。
が、校庭に出たとき、自分たちが手がけた花壇がなくなっているのに気づきました。不思議に思ってあの若い男性教諭に尋ねてみると、
「どこかで見た顔だと思ったら、あのときの家庭菜園好きなママさんじゃないですか、ですよね、ですよね。えっと、あの花壇はですね、耐震工事の車両の邪魔になるっていうので先週だったか先々週だったか撤去されちゃいました。県の学校花壇コンテストで表彰されたりして評判良かったんですけどね。残念です。あ、でも、植わっていた植物は児童たちみんなで力をあわせてプランターに植え替えたんですよ。命の大切さを学ぶいい機会になりました。来月の学校だよりに写真付きで載るはずですよ。是非みてください」
といいました。
一抹の不安を覚えたカリスマガーデニングママさんが、「家庭菜園好きなママ」さんでなく「カリスマガーデニングママさん」だと訂正したい気持ちをおさえてプランターがおいてあるという場所を見に行ってみると、低学年児童ひとりひとり用のアサガオやミニトマト栽培キットがずらりと並んだその奥に、真新しいプランターが列をなしていました。
そしてそこには、苦心して種や品種、咲かせる花の色を選定し、各種専門家のみなさんと話しあって本数や配置を決めて慎重に植えた植物たちが、完成後に生えてきたらしい雑草の一本一本とともにセンスのかけらもなくきっちり等間隔に植えられていたのでした。
カリスマガーデニングママさんは、こんなときは放心して天を見上げるべきなのか、がっくりうなだれるべきなのかさんざ迷ったすえ、そんなことに悩む自分が馬鹿らしくなって、蚊にさされた左の二の腕をぽりぽり掻きながら家路についたのでした。
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あ、いや、わかりやすいどころか、よけいに意味不明になる例え話でしたか、そうですか、そうですね、すいません。